昨年の秋、ニューヨークから嬉しいニュースが届いた。現地で催された『地球交響曲第三番(英語版)』の上映会に、現代宇宙物理学の最高権威であり、『第三番』の出演者でもあるフリーマン・ダイソン教授(82才)が、ニュージャージーのプリンストンからわざわざ会場に駆けつけ、初めて『第三番』を英語で鑑賞し、観客達と親しく対話をしてくれた、というのだ。
さらに、彼が『第三番』に深く感動し、自分の親しい同僚や友人に見せたいのでコピーを送ってくれるよう主催者に頼んだと聞いて胸が熱くなる想いさえした。というのも、『第三番』は、クランクイン直前に出演者のひとり、星野道夫を失い、『地球交響曲』のシリーズを、すべて打ち切る覚悟さえしていたとき、すでにスケジュールの決まっていたフリーマンの撮影だけを敢行し、そのときフリーマンから与えられた数々の言葉に依って、このシリーズを継続する勇気を与えられたからだった。
ちなみに、フリーマンの撮影に旅立ったのは、カムチャッカから送還された星野の遺体を羽田で迎えた翌日のことだったのだ。
フリーマン・ダイソンは19歳のとき、アインシュタインに招かれてイギリスからアメリカに渡り、プリンストン高等学術研究所の教授となった超天才科学者、量子力学と相対性理論を統合するダイソン
方程式を20代前半で発見した、知る人ぞ知る、"マッド・サイエンティスト"である。有名な科学評論家カール・セーガンはかつてフリーマンのことを「地球に降り立った宇宙人」と評していた。実際、深い科学的知識と桁外れの想像力から生まれる彼の宇宙論、未来論は、聞く者の度肝を抜くものでありながら、その背後に秘められた生命に関する深い洞察力に、目から鱗が落ちるようなさわやかな感動を覚えるのだ。例えば、
「宇宙の話を聞くときの子どもたちのあの目の輝きを見たまえ。あれこそが、人類が宇宙に進出していくなによりの証拠なのだ。人類は一千年のタイムスケールで太陽系全体に進出し、一万年のタイムスケールでは、宇宙全体に生命の輪を拡げてゆくだろう。そのプロセスで人間は必ず"こんな面倒な宇宙服は早く脱いでしまいたい"と思うだろう。そのとき、人間は宇宙服なしで宇宙空間に生きることのできる新しい宇宙生命体に進化するのだ。人間の持つ想像力は単なる絵空事ではない。人は心に描いたことを必ずいつか実現する。その為に、"神"は人間に想像力を与えたのだ。私が持つあらゆる科学的知識に照らしてみて宇宙にはなんらかの"意志"がある、と考える方が科学的なのだ。その"意志"を人々は"神"と呼んでいるのだろう」。
こんなことを言うフリーマンが、星野の"死"を越えて永遠に続く生命を描いた『第三番』を気に入ってくれたことが私には嬉しかった。誕生したものは必ず死を迎える。しかし、"死"は終わりではない。個体の"死"は、次の世代に生きる場をあけ渡し、進化しながら生き続けようとする宇宙の"意志"のあらわれなのかもしれない。
デジタルTVガイド・連載『地球のかけら』 2006年4月号
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