(分子生物学者 京都大学特別教授 ノーベル生理学・医学学賞受賞者)
私が初めてインタビューさせていただいた80年代初頭、本庶氏はすでに抗体の遺伝子に関する研究で、難病解明に大きく貢献し、世界的な評価を受けていた。そのときに語ってくれた言葉は、その後の映画「地球交響曲」の構想に大きな勇気を与えてくれた。
彼はインタビューのなかで次のように語ってくれた。
「遺伝子の構造、親から子へ伝わってゆく仕組み、生命というのは太古からひとつながりである。我々が今日持っている防御システムというのは、実は非常に遺伝子の小さな単位を組み合わせることによって多様な発現系が出来上がる。最初にすべての可能性を出して、そのあと、いいものを好きなように選びなさいというシステムである。それから学べることは、一見、今日、ムダに見えることを、いまムダだからと全部切ってしまうと将来困ることが起きる。だからムダのなかに将来に対する備えがちゃんと入っている。
人という種は、たくさんの遺伝子の変形を抱合し多様性があるから長い進化の過程を生き永らえてきた。もしひとつの遺伝子系しか持っていなかったら、環境がちょっと変わったらヒト全体が滅びてしまう。」
すべての生命はひとつながりのものであり、ともに調和しながら永遠に生きている。宇宙誕生の一瞬に生まれた素粒子のひとつさえ、宇宙の無数の星々の誕生と死に関わりながらいま、この私のからだのなかにあるかもしれない。地球交響曲の魂の生みの親といっても過言ではない本庶佑氏に「地球交響曲」最後の作品となる第九番に出演していただけることに、感謝の気持ちでいっぱいである。