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パネヴェッジオにて木の伐採

パネヴェッジオ2日目。

スプルースというヴァイオリンの表板にする針葉樹の伐採に立ち会う。

カメラがハイレベルから伐採の様子を狙う。監督はカメラの横で指示を出す。僕は下の位置で伐採をするレンジャーなどに作業工程を聞き、それを監督にトランシーバーで伝える。

300年という年輪を重ねた木を切るという。これはあのストラディバリが生存していた頃から育った木である。この木を切るとき中澤さんはどんな想いで立ち会ったのだろうか。

レンジャーが木に印を刻み、チェーンソーが徐々に木の中に入っていく。倒れる方向へよろめく木は、最後一気に倒れ、雪の煙が辺り一面に舞う。ここに何百年もあったものが、あっという間に姿を移す。木や辺りが感じていることは、悲しみなのか、喜びなのか、前進なのか、後退なのか、よくわからない。

監督から伐採する作業をする人に、この後どうするのかを聞きに行けと言われた。実は僕が不安に思っていたのは、彼らが何語を話しているのかがさっぱりわからなかったことだ。でも監督の指示があったので、何も考えずに話しに行くと、たどたどしいイタリア語ながら、会話が通じたのでホッとした。後々、コーディネーターに聞くと、イタリア語とフランス語が混じっている言葉を話しているという事だった。「君にはわかるはずないよ」レンジャーもスイス人だけに、この国境地帯では、僕の聞きなれたイタリア語は耳にすることはなかったようだ。

2本目の伐採が終わり、これはあまりいい木ではないということで、中澤さんが「これはいい木だろう」という3本目の木の伐採に取り掛かった。この木の伐採ともなると、さすがにみんな要領を得るようになっていて、僕が工程を聞く必要もなくなっていた。それでも伐採に時間が一番かかる木であった。

普段と同じように木を切る作業を進めるのだが、プルプル震える木を上に、その下でどんなに趣向を凝らしてみても、ガンとして木は反応しない。「ここから離れたくないのかな?」

かなりの時間を要しながらも、3本目の木を切り倒すことができた。やはりこれがいい木であると、中澤さんが確信したその通りであったようで、早速、切り取った木の一部をクレモナまで持ち帰っていた。

これだけの大きなものに刃を入れて、新しいものを作る。一体どんな想いで刃を入れていくのだろうか。その答えは、まだこれから先にあるのだろう。