樹の精霊に出会う──能面「阿古父尉(あこぶじょう)」の復活

奈良県吉野の山深くにある天河大辧財天社の宝物庫には、過去600年間、再び甦る日を待ちながら眠り続けて来たある能面が納められています。

阿古父尉(あこぶじょう)」と名付けられたこの能面は、若くして非業の死を遂げた天才的能役者、観世流三代目元雅が、死の一年前、万感の想いを込めて天河神社の能舞台で舞い、自らの手で奉納したものです。元雅はその後、旅先の伊勢で何者かに暗殺された、と言い伝えられています。

この「阿古父尉」に突然復活の機会が訪れたのは2011年9月、天河大辧財天社が紀伊半島大豪雨災害で甚大な被害を受けた直後のことでした。新作能「世阿弥」の舞台で「阿古父尉」を使いたいという願いが国立能楽堂から柿坂神酒之祐宮司の下に届いたのです。しかし、600年前の能面をそのまま舞台で使うことはできません。そこで、当代随一の能面打 見市泰男氏が選ばれ、「阿古父尉」の復活が始まったのです。

能面は、単なる演劇用の仮面ではありません。能面を彫り出す為に選ばれた老大樹の中には未だ姿形を持たない無数の能面=樹の精霊が潜んでいます。その能面のひとつを、匠(たくみ)が古(いにしえ)の姿形に学びながら、磨き抜かれた手技(てわざ)と祈りに依って目に見える世界へ誘い出してゆく。匠が震(ふる)う鑿(のみ)の一刃一刃は、樹の精霊を表(面)の世界に移し変えてゆく神事の様なものなのです。

その面をつけて演者が舞台に立つ時、演者に乗り移った「宇宙の意志」が観る人々を時空を越えた幽玄の世界へ誘ってゆく。「阿古父尉の復活」を描く事に依って、「真の復活」とは何かを問うてみます。

予定出演者:

能面打 見市泰男
天河大辦財天社宮司 柿坂神酒之祐
能楽師 梅若六郎玄祥