パネヴェッジオにて白銀の風景
‐15℃。
はりつめた空気に、凍てついたかのような雪に埋もれたイタチの足跡。
この日の最低気温まではいっていないはずだが、スタッフ全員の気持ちはそこまで行っていた。
パネヴェッジオまでの移動の車中、朝の光が差し込んでくると、助手席に座っていた監督が叫び声を上げた。そしてすかさず中澤さんもカメラを手にした。そこには影が一つもないように見えた。「今回のロケを象徴しているようだな」
パネヴェッジオはイタリアの北、オーストリアとの国境近くにある山岳地帯で、一般的にはスキーリゾートとして楽しまれているような地域。カレンダーの12月で見た事のあるような、絵に描いたような針葉樹が広がっていて、雪の中に足を踏み入れようものなら前進できないほどに足を取られる。そしてその中で撮影は進んでいく。
「レディ、アクション!」
監督の怒声が森の中で鳴り響き、それに合わせて中澤さんたちが動き始める。どれがヴァイオリン作りにいい木なのか? 中澤さんは一つ一つの木を叩いて確かめる。樹齢300年の木と、ようやく出会えたことの喜びを噛みしめながら、言葉にならない言葉で、じっくりと対話をしているようだった。
カメラマンの手も、かじかんでまともに動かない中で、それでもそのワンカットワンカットをフレームにおさめていた。そして僕はせっかく用意していたコーヒーを、あまりの寒さに逆に、みんなに提供することを忘れてしまっていた。