5/22「ガイア三番」トリヴィア#6
#6オーロラと彗星とワタリガラスと
1997年3月末、ヘール・ボップ彗星が地球に最接近した頃、撮影隊の姿はアラスカ・マッキンレー山の麓に位置するルース氷河にありました。
「子供たちに厳冬期のアラスカを体験して少しでも何かを感じてほしい」という思いで星野さんが提唱したオーロラクラブのキャンプに同行撮影させて頂いたのです。
ルース氷河は、星野さん自身も撮影に何度も訪れているポイントであり、子供たちを安全に導ける数少ない場所です。
とはいえ、ここはアラスカ。唯一の交通手段は、山あいの一面雪に覆われた氷河の上に不時着するようにセスナで渡って来るしか方法はありません。
その日はよく晴れ渡り360度見渡す限り真っ白。生き物の気配を全く感じさせない、唯一風の音だけが何かの気配を感じさせてくれるものでした。
昼間、星野さんがここに来たならどんな事をするだろう?
そんな思いで、愛用の品々を我々の手で撮影させて頂きました。
夕方、太陽が山陰に近づくにつれ、西の方から山々の影が駆け足でこちらに向かって来るのが分かりました。そしてあっという間に我々のキャンプ地を白から黒色に染め上げていきます。その白と黒のボーダーラインが私たちを通過するや否や、身震いするほど身体の芯から冷やされていくのが分かりました。
その夜、ヘール・ボップ彗星の撮影に挑みました。長時間露光のコマ撮り撮影のため、1カットの撮影に時間を要します。数時間ねばって撮れるのは2〜3分程度。その間、カメラのそばでちゃんとシャッターが切られているかどうか見張ってなければなりません。徐々に我々も凍り付いていきます。
そんな時の事でした。東の空に、もやもやとした何かが動いているのです。
オーロラです。
見る見るうちに色が現れ、こちらに近付いてきます。でも今は、彗星の撮影中、すぐにはカメラを移動できません。
そこで勝手に願ったのは、オーロラさんに彗星の方に来てもらう事でした。
その願いがかなったか否か?それは、三番の冒頭をご覧下さい。
そして、明くる朝にも思わぬ出来事が!
日の出とともにテントの外の様子を見に出た赤平カメラマン。いきなり外から息をころしたような声で、でも気持ちだけは大声で叫んでいます。
「カメラ、カメラ!」
あわてて、カメラを抱えて赤平さんの元へ。
昨日、星野さんならこのルース氷河でいったいどんな風に過すだろう?
というイメージを持ってカメラを向けたその場所に、今朝、思わぬ光景がありました。
“どうして、こんな事があり得るのだろう?”
よければ、少しそんな事を想像しながら3番をご覧頂ければ、また何か違ったものが見えてくるかもしれません。
※赤平さんの声で、あわてたテントの中にいた撮影助手さん。急いだのでしょう、何を思ったのかフィルムのマガジン(ケース)を開けてしまったのです。それは、昨夜苦労して撮った彗星の撮影済フィルムでした。きっと、身体の芯から凍り付いていたのかも知れません。気持ちも凍り付いた一瞬でした。
が、帰国後すぐに現像されたフィルムには、皆の安堵の色が映っていました!
次にヘール・ボップ彗星が戻ってくるのは、4530年ごろだと考えられているそうです。
(ラインプロデューサー・西嶋)