5/23「ガイア三番」トリヴィア#7
#7もっと低く!
「もっと低く!」
ドン・ロスが操縦するセスナに、撮影しながら並走するヘリコプターからのリクエストが無線で伝えられる。
北米最高峰の山マッキンレーを抱く雪原を、龍村監督を乗せたドンのセスナと、赤平カメラマンを乗せたヘリが低空で過ぎ去っていきました。
セスナには、そもそも暖房機能はついていません。ヘリの方といえば、防振機能着きのカメラマウントを装着するため扉は外され、外気が直接機内にも吹き込んできます。4月とはいえ、体感はマイナス数十度の世界。数百キロで飛行を続ける二機の撮影は、離陸から3時間にも及びました。
「この速度で、この高度を保つのはもう限界だ、ジン」とドンが監督に告げた時には、その目前に山がそびえ立っていました。ヘリの速度に合わせるため、失速ギリギリのスピードで低空飛行を保っていたドンのセスナは、次の瞬間スロットルを大きくふかして上昇旋回していきました。
“何をそこまで粘って撮影していたのだろう?”
この空撮で、ドンが操縦するセスナの飛行シーンを様々なアングルやシチュエーションでヘリから撮っていたのは想像できます。
が、この最後に撮ったシーンはいったい何をねらっていたのだろうか?
龍村監督は、あえてオールラッシュ(現像したフィルムを始めて見る試写)まで、その事には触れませんでした。
帰国数日後のオールラッシュ、2日間に分けて今回撮影してきたフィルムのすべてを撮影順に試写していきます。フィルムには、ビデオの様に音は入っていません。
無音の試写室で、次々と数日前に起こったシーンが甦っていきました。
そして、あの空撮シーン。
スクリーンに映し出されたのは、飛行するドンのセスナの姿ではありませんでした。
そこには、まるで生き物のように雪原を飛んでいる、セスナの“影”が映し出されていました。
やがてカメラは、“影”から“生身”のセスナへとパーンアップされていきます。
“あぁ、これが撮りたかったのか…”
不思議と腑に落ちる感覚が、そこにはありました。
光と影、この一対の世界のあちらとこちらを撮影し続けてきたこの数ヶ月。
その象徴的なワンシーンとなりました。
※セスナでの撮影中その寒さ故一番困ったのは、トイレ事情。と、撮影を終え帰ってきた監督が一言。
その苦難が、まさか自分に回ってくるとはその時思ってもいませんでした。
それは、シシュマレフ村まで撮影に行った時の事。星野直子さんと翔馬くん、そして撮影隊を乗せた飛行機が村にやって来るシーンを撮るべく、ドンのセスナで先回りする役目を仰せつかり、6時間の飛行をする事に。途中給油のための寄港はあったものの、もうギリギリでした…。
でも、特別な機内食をドンから分けて頂きました。それは、のり巻きおにぎり。
そう、ドンの奥さんは、日本人だったのです!
(ラインプロデューサー・西嶋)