5/19「ガイア三番」トリヴィア#3
#3ロード・ムービーの扉
それは、小雨の降る薄暗い日の午後でした。
フェアバンクスから空路シトカへ移動してきた撮影隊は、雨にも濡れ寒さと少しの疲れをまといながら、ひとまず抱えた機材や荷物とともに宿に入りました。
たしか、その宿の名前は「ポトラッチ・イン」。
少し怪しげな雰囲気を漂わせる古びたモーテルでした。
ここで、あのボブ・サムに会う約束だけを取り付け、はるばるやってきました。
いよいよ「ワタリガラスの伝説」の世界に足を踏み入れた、そんな感じがしていました。
当時まだ月刊誌に連載中だった『森と氷河と鯨』の全切り抜きを握りしめ、その未完になってしまった次のページを知るために、ここまでやってきたのです。
その冒頭に描かれている星野さんとボブの出会いのシーンを思い起こしながら、いつ現れるかも分からないボブの姿を、小さなフロントで待ち続けていました。
でもその時の訪れは、意外なほどあっけなくやってくるものです。
ほぼ時間通り、目深にベースボールキャップをかぶった男がフロントのガラス扉を開けて入ってきました。
それが、あのボブでした。
龍村監督との短い言葉のやり取りで、我々が何をしにきたのか、そして先の分からぬこの旅がどこに向かおうとしているのかを、お互いが分かち合った様なひと時でした。
そう言えばこの撮影の旅では、我々スタッフ同士で交わされる言葉も、いつになく少なくなっていた様な気がします。
初めて辿り着いた場所で、初めて見聞きするものをフィルムに納めていく、そしてまたその繰り返し。
きっと旅のその途上に立っている時は、その先に続く道の事を想像はすれど、分かりもしていないものなのでしょう。
それがロード・ムービーなのかも知れません。
※スタッフの一人が夜中に極度の金縛りにあい、やっとの思いで私の部屋の電話に助けを求めてきました。しかし私自身も体調を崩し寝込んでいる最中、何もできません。すぐさま龍村監督に助けを求めたとか…
おそるべし、「ポトラッチ・イン」
(ラインプロデューサー・西嶋)